USCPAの勉強。受け取り手形について。
Notes Receivable(受取手形)
今回は、Notes Receivable(受取手形)の論点について見ていきたいと思います。科目の性質としては、Accounts Receivable(売掛金)と似ています。Accounts Receivableは将来現金を受け取る約束のようなあいまいなものですが、Notes Receivableはノート、つまり紙(手形)に書かれたよりしっかりした約束事の形式となります。
実務で言うと、Accounts Receivableは取引先にモノを売り上げたときに請求書を送っている状態、Notes Receivableは先方から「○月○日にお支払いします」という紙の手形を受け取った状態になります。会社によって違うかもしれませんが、僕の所属していた会社はNotes Receivableを受け取ったあと、必要書類を揃えて手形と一緒に銀行に渡し、期日に振り込まれるという流れでした。あれ、非常に面倒なのですよ。
この実務では面倒なNotes Receivableですが、USCPAの試験でもなかなか面倒な問題が出題されます。Notes Receivableの重要な論点は「Present Value(現在価値)」になります。日本人があまり得意ではない分野ですね。僕も慣れるまでは何となくつかみにくい概念でした。
Present Value(現在価値)
Present Valueとは定義から説明すると「Future Value(将来価値)をある一定のDiscount rate(割引率)で割り引いた現時点での価値」ということになります。ファイナンスの分野に少し入っており、今までこういった話を教育で受けていない人にとっては難しく感じるかもしれません。とにかく以下の概念を覚えましょう。
現在の10,000ドルと将来受け取れる10,000ドルは価値が違う
Notes Receivableの中には「1年後に支払う」といった長期にわたる満期の性質を持つものがあるため、この「将来受け取れる10,000ドル」という点が、大きくNotes Receivableと関係してきます。これがPresent Valueの考え方に繋がってくるのです。この点について、もう少し詳しく見ていきます。
Present Valueの考え方
Present Valueには、金利の概念が深く関係してきます。例えば、あなたの友人が突然やってきてこう言い出します。
「10,000ドル貸して。1年後に10,000ドル返すから。」
嫌な気分になりますが、友人であれば、貸してしまうかもしれません。ところが、この友人は1年後に10,000ドルを返すと言っています。この点をよく考えると、貸す側が損をしていることがわかります。銀行預金の低金利に慣れた人にはピンと来ないかもしれませんが、通常であれば10,000ドルを銀行に預けていれば利息をもらえます。現在ではありえない水準ですが、仮に金利5%の銀行に友人に貸すはずだった10,000ドルを預けていたと仮定すると、1年後には以下の金額になります。
10,000ドル×1.05 = 10,500ドル
このように、1年間で500ドルの利息をもらえるはずです。この考えを反映させたものがPresent Valueとなります。先ほどの例をとると、友人が1年後に10,000ドルを返すと言っているのであれば、金利が5%の世界を考えた場合、現在あなたが貸すべきお金は以下のようになります。
10,000ドル÷1.05 ≒ 9,524ドル
これを言い換えると、金利5%の世界では1年後に手に入る10,000ドルの現在価値は9,524ドルなのです。つまり、あなたが友人に対して取るべき反応は「貸してもいいけど、1年後に10,000ドルで返してくれるなら、今僕が貸せるのは9,524ドルかな。」という返事となります。
現実では銀行の信頼性と、友人の信頼性を比較して、もう少し大きく値引きした金額を貸すのが基本なのですが、今回はそこまで踏み込まないことにします。
この「将来に○ドル受け取る権利」が、Notes Receivableになります。Notes Receivableは「○月○日に○ドルお支払いします」となっているので、これがPresent Valueの考え方にばっちり当てはまるのです。次からは、Notes Receivableの具体的な仕訳について見ていきます。
Notes Receivableの仕訳
今回は、ABCD CompanyがEquipment(備品)を販売して、代わりにNotes Receivableを受け取った仕訳を見ていきます。
前提条件
- 現在の市場金利:8%
- Notes Receivableの金利:5%
- Notes Receivableの金額:10,000ドル
- 取引日:1月1日
- 満期日:5年後の12月31日
これだけ見ると、DebitにNotes Receivableを10,000ドル、CreditにEquipmentを10,000ドルで「完了!」としてしまいがちですが、それは間違いになります。これらの前提条件をもう少し説明していきます。
まず、市場金利8%とは、市場で取引の際に行われている金利は8%ということです。そのような状況の中で、このNotes Receivableはなんとたったの5%という低い金利となっています。さらに、満期日は5年後となっており、その時に10,000ドルを渡しますというものになっています。ここで、先ほどのPresent Valueの考え方が登場します。
5年の間、8%で運用を行い1ドルになるときのPresent Valueは0.681になります。試験などで与えられる英語の例としては「The present value of $1 for 5 period at 8%」です。このPresent Valueである0.681は1を8%、つまり1.08で5回割れば導くことができます。通常は試験でこの数字は与えられます。こちらは元本分に使用することになります。
次に、このNotes Receivableが生み出す金利5%でもらえる利息合計の現在価値を考慮する必要があります。英語で書くとThe present value of an annuity of $1 for 5 period at 8%です。この金額は3.993となります。この数字も試験では与えられます。こちらは金利分に使用することになります。
上記のPresent Valueの係数を利用して、Notes Receivableの現在価値を計算します。まず、元本金額は10,000ドルだったので以下の計算となります。
10,000ドル×0.681 = 6,810ドル
次に、このNotes Receivableが5年間で生み出すであろう合計利息を現在価値にすると以下のようになります。
(10,000×1.05)×3.993 = 1,997ドル
これらの元本と金利を合計すると、以下のようになります。
6,810ドル+1,997ドル = 8,807ドル
つまり、今回の仕訳で受け取ったNotes Receivableの現在の価値は8,807ドルということがわかります。例えNotes Receivableに10,000ドルと書いていても、現在の価値は8,807ドルなのです。
仕訳
ここで、上記で求めたPresent Valueをもとに仕訳を切っていきます。繰り返しになりますが、ABCD CompanyがEquipment(備品)を提供して、代わりにNotes Receivableを受け取る仕訳となります。まずは取引時から見ていきます。
【仕訳1】:取引時
Dr Notes Receivable 10,000
Cr Equipment 8,807
Cr Discount on notes receivable 1,193
このようになります。Crを見ればわかりますが、Discountが発生しています。僕が勉強したときはこのような仕訳だったのですが、もしかしたら現在ではDiscountを使用せずに、以下の仕訳となっている可能性があります。
Dr Notes Receivable 8,807
Cr Equipment 8,807
しかし、あまり大きな違いとはならないので、僕は自分が勉強した方式で以下からも説明していきます。次に、1年度の利息を受け取る際の仕訳を書いていきます。
【仕訳2】:1年後
Dr Cash 500
Dr Discount on notes receivable 205
Cr Interest Income 705
この時点で、取引時に計上したDiscountを少し取り崩します。別のパターンの場合は、Discountの代わりにNotes Receivableを増額することになります。Discount金額は、Interest Income(受取利息)と受けとるCashの差額となります。ここが最重要となりますので、もう少し詳しくみていきます。
まず、1年間で実際にもらえる利息はNotes Receivableに書いてある通り(stated rateと言います)5%となります。これにNotes Receivableに書いてある金額10,000ドルを考慮して
10,000×5% =500ドル
となります。つまり、毎年受け取る利息は500ドルで固定されています。そして実際に計上するInterest Incomeは、市場金利である8%と、DiscountされたあとのNotes Receivableの金額で計算します。
(10,000-1,193)×8% = 705ドル
この705ドルと500ドルの差額である205ドルが、Discountの減少となります。1年間を経て、現在価値の考慮が残り4年となったので、少し影響が少なくなったことを計算で表しているのです。つまり、Discountの金額は減少した状態で2年目に突入することになります。これは次の仕訳で判明します。
【仕訳3】:2年後
Dr Cash 500
Dr Discount on notes receivable 221
Cr Interest Income 721
少し金額に変化が起こりました。また、ひとつずつ仕訳の内訳を見ていきたいと思います。まずは実際に受け取る利息の金額です。
10,000ドル×5% = 500ドル
ここは最後まで変わりません。Notes Receivableに書いてある通り、毎年5%分の金利をもらうことになります。次に、市場金利8%に、Discountされた後のNotes Receivableの金額をかけてInterest Incomeを計算します。
(10,000-(1,193ー205))×8% = 721ドル
1年目に減少させたDiscountを考慮すると、少し大きめのInterest Incomeとなるのです。Discountが減る=Notes Receivableの金額が増えるということなのです。そして、これらの差額でまたDiscountの減少を行います。今回は721ドルと500ドルの差額なので、221ドルの減少になります。つまり、2年目が終わった時点でのDiscountの状態は以下の状態となります。
1,193 - 205 - 221 = 767
これと同じ手順で、3年後、4年後と仕訳を切っていきます。
【仕訳4】:3年後
Dr Cash 500
Dr Discount on notes receivable 239
Cr Interest Income 739
Discountが減少した分、Interest Incomeが増加し、差額であるDiscountの減少幅もまた増えています。受け取るCashに変更はありません。これでDiscountの残りは以下のようになります。
1,193 - 205 - 221 ー 239 = 528
あと利息を受け取るのは2回です。
【仕訳5】:4年後
Dr Cash 500
Dr Discount on notes receivable 258
Cr Interest Income 758
この時点で、残る仕訳は1回となりました。残るDiscountは以下のようになります。
1,193 - 205 - 221 - 239 - 258 = 270
この状態で最終日、つまりNotes Receivableの金額を受け取る日を迎えるわけですが、このときの仕訳は少し注意が必要になります。では、最後の仕訳をきっていきます。
【仕訳6】:満期日
Dr Cash 500
Cr Discount on notes receivable 270
Cr Interest Income 770
これで、Discount on notes receivableが全てなくなり、Notes Receivableの金額が10,000となりました。注意点は、この際の仕訳は残りのDiscountを全て減少させるために、残っていた270ドルの金額で仕訳を切るということです。今まで通り計算してみると、少し金額がずれることがありますが、気にせず最終日は残りの金額全てで仕訳を切ります。そして、Discountが無くなったNotes Receivableの金額を受け取る仕訳を切ります。
【仕訳7】:Notes Receivableの回収
Dr Cash 10,000
Cr Notes Receivable 10,000
これにて、当初の予定であった「5年後に10,000ドル払います」という約束が守られました。この流れが最もオーソドックスな流れになります。他にも年に2回の利息支払いがあったり、元本を途中で払って来たりするパターンがありますので、問題集を何度も解いて慣れてしまうのが一番です。
以上で、Notes Receivableの説明を終わります。上記のように、市場利息と、Notes Receivableに記載されている利息(Stated rate)の差額を利用して徐々にDiscountを減少させていく方法を、Interest Method(利息法)と呼びます。これとは別に、ただ毎年決まった金額を減少させる方法もありますが、簡単なので試験にはあまり出題されません。