【書評】ドラッカーと会計の話をしよう
前のブログより転載。加筆、修正しております。
最近仕事ばかりであまり本を読めていなかったので、久しぶりにAmazonを使用して会計に関する本を数冊購入しました。この時は好きな著者の本だけを集中して購入することにしました。自分が好きな人の著書でハズレと思うことはあまりないためです。本が届いたその日に、素早く1冊読み終えたのですが、これまで読んできた本と変わらず、なかなか発見がある良い本でした。それがこちらになります。
結構変わったタイトルになりますが、中身に関しては会計に関する小説風の物語になります。実は過去に何度が目にしたことはあったのですが、タイトルの時点で少し敬遠していました。どうせ読むならもっと早く読んでおけばよかったですね。
あらすじ
経営不振に陥ったイタリアンレストランの経営者が、そのレストランについてアメリカの実業家から買収したいとの打診を受けます。その経営者は買収を打診した実業家と一度話をするために、アメリカのロサンゼルス行きの飛行機に乗り、その行きの飛行機の中で謎の紳士と隣合わせの座席になるところから始まります。そして、その謎の紳士による「成田からロスへの一夜限りの会計講義」を共に受ける流れとなります。
この本を読み進めることによって、会計の勉強をして「会計の常識」が染みついている人にとっては驚くような内容が書いてあります。実務に携わらず、会計の知識だけを詰め込んでいる人にとってはかなり有用な情報になるのではないでしょうか。例をあげると「利益と儲けは別物」、「利益が会社を潰す」、「利益は幻想」、「売上とコストは連動していない」、「ビジネスは1年で完結しない」、「チリも積もれば山となるコスト削減は最悪」などです。
先ほど記載した通り、この本では会計の話を中心に物語が進められるのですが、その内容が非常に実務に沿ったものであるため、普通に会計や簿記の教科書を読んでいるだけでは気がつきにくいことにまで踏み込む内容が書かれています。個人的に実務経験から重要だと感じたのは、以下の文章です。
以下、引用
「業績が悪化したのは、過去にしてきた何十億、何百億という無駄な支出(投資)がキャッシュを生んでいないからなんだ。だが、経営者は、それだけ失敗をしておきながら、そんなことはおくびにもださずに、部下に節約を強いている」
引用終わり
僕が一番最初に入社した会社では、ここでは書けないような(むしろ書いたらどこかわかるレベルの)とてつもないコストカットを行っていました。簡単な例をあげると、会社支給の備品は全てカット(つまり、何もなし)。交通費支給カット。カット。カット。カット。あまりのコストカットの息苦しさに、優秀な従業員がさっさと辞めて他の会社に転職したり、転職はしなくてもモチベーションが下がったり、文句を言ったりしていました。そのレベルまでコストカットを行う一方で、持ち合いの株式は売却しない。経営陣や何も仕事をしていない高給取りの上の世代はそのまま放置という有り様でした。僕自身もこのような状況が積み重なり、最終的にはさらに良い待遇の会社へ転職することになりました。びっくりするくらい引き留められましたが、「え?この状況でよく引き留める言葉が口からでるなぁ」と謎の感心をする事態でした。今思うと僕だけでなく周囲にも「辞めたい」という従業員が山ほどいたので、仮に彼らのうち何割かが辞めてしまうと、それまでその従業員にかけていた研修費や採用費用など、膨大な労力が無駄になってしまいます。
また、本の後半では管理会計の限界についても触れられています。さらに、コストの管理に現在でいうABC原価計算などの「時間」と「プロセス」の概念を提唱しています。この部分を読めば、「何もしないこと」にかかるコスト、そしれそれを管理することが実際のビジネスにとってどれほど重要なのかがわかります。
不思議なことに、この本を読むと、副業のような形で何でも良いのでビジネスをやって、自分の手で実務に触れてみたいという気持ちになります。本に書いてあることが全て正しいわけではないということはわかるのですが、本当にこの本に記載されていることを忠実に守れば、堅実な経営ができるような気がするのです。
結論として、会計の可能性をさらに考えることができる良い本でした。また、この著者の本を何冊か読んでみると、この著者には一貫して伝えたいことがあると感じます。もっと多くの本を読んで、どんどんと自分の血肉にしていきたいと思います。手元にはあと数冊あるので、さっそくそちらも読んでいきたいと思います。
少しだけマイナスなポイントを上げるとすれば、やはりそれは本のタイトルになると思います。かなりキャッチ―なタイトルになっていることが多く、気を引くのは確かですが、会計に興味がある人には手に取られにくいかもしれません。
追記:コミック版もあるようです。