監査法人におけるリモートワークの実態
2019年12月8日、世界で初めて新型コロナウイルスの症例が発症してから、中国武漢市の海鮮市場において感染が拡大化し、この記事を書いている2021年3月現在、世界はコロナウイルスの脅威にさらされて、これまでの常識が一切通用しない状況に陥りました。我が国においても、2020年4月から5月にかけて緊急事態宣言が出され、その後収まったかのように見えました。ところが冬にかけて感染が拡大したことに伴い、2021年1月7日、再び緊急事態宣言が出される事態となっています。
コロナウイルスの「3密」による感染が顕著という状況から、日本の企業は急速にリモートワークに移行を開始し、在宅勤務、時差通勤が当たり前の世界になりました。僕が所属する監査法人においても、基本的にリモートワークを推奨する流れになっていますが、本当の実態はどのようなものなのか、将来の備忘のために記録しておくことにします。この記事を読まれる皆様においては、今後コロナがおさまった際に「自社は監査法人と比べてどうか」であったり「監査法人に転職を考えているが、執務環境はどうか」といった、自身のキャリアを判断する材料にしていただければと思います。
1点だけ注意事項があります。それは、これから記載する情報は全ての監査法人におけるものではなく、私が所属する監査法人に限るものであること、そして私が所属するアドバイザリー部門の話であることです。他の監査法人では事情が異なる可能性は十分にありますし、監査部門でも状況は違うかもしれません。あくまで参考情報としていただければ幸いです。
監査法人におけるリモートワークの実態
さて、いきなり結論から入ってしまいますが、監査法人のアドバイザリー部門におけるリモートワークの実態は、以下の一言でまとめられます。
法人としてはリモートワークを推進するが、結局のところクライアント次第
現状、残念ながらこういう結果になっています。少し前に、なぜアドバイザリー部門が激務になるのかという話を書いたのですが、その時も結局プロジェクト次第という結論になっており(参考:なぜアドバイザリー部門は激務なのか)、クライアントに合わせて変化するというのは監査法人の宿命なのかもしれません。ただ、クライアント次第と言われてもあまりピンとこないかもしれませんので、もう少し具体的に説明していきます。僕はコロナの状況下において、いくつかのプロジェクトに携わってきたのですが、それらの経験をもとにしています。加えて、チームメンバーへのヒアリングを通して、どのような勤務形態なのかを確認したので、そちらも踏まえて書いていきます。
パターン1:メンバーの半分がリモート
いきなりわかりづらい例で恐縮ですが、メンバーの一部がリモートワーク、残りのメンバーがクライアント先で常駐(または法人事務所へ勤務)といったケースがあります。つまり「リモートワークするのは構わないが、メンバーの何人かは現場にいる必要がある」プロジェクトになります。
どうしてこのような勤務体系になるのかというと、基本的にクライアントから貸与されているPCで作業を実施し、そのPCをクライアント先から持ち帰ることができない、または原則としてクライアントのローカル環境に資料を全て格納してから帰宅する必要がある(つまり資料の持ち出し禁止)などの制限があるためです。
個人的な意見としては、素人(あえてこう言います)が構築したローカルサーバーに保存するよりも、その道の専門家である企業がサービスとして提供しているクラウドサービスを利用したほうがはるかに安全で使い勝手が良いと思うのですが、「クラウドとか怪しくて信用できない」というクライアントも一定数いるわけです。まぁ信仰の自由はこの国では認められておりますので、我々監査法人としては従うしかないわけです。
ちなみに、リモートワークしているメンバーは何をしているのかというと、上記制限に引っかからない範囲で業務を実施しています。例えばクライアント情報に関わらない監査法人側のプロジェクトマネジメントに必要なことであったり、クライアント情報を扱う場合でも、資料作成後に常駐メンバーに共有し、業務終了時に自分のPCからは資料を全て削除することにより対応したり、この辺りの制限に対する柔軟度はプロジェクトによって振れ幅が大きいです。
ちなみに、この体制はローカル環境で作業しているメンバーに負荷がかかりやすい性質があります。僕もこういうプロジェクトにかかわったことがありますが、ローカル環境に保存されているファイルの共有を依頼されたり、常駐先にある紙資料の確認を依頼されたり、かなり大変でした。つまり、通常業務以外にも「リモートメンバー」と「現場」のつながりを維持する役割が、出社しているメンバーにのしかかるという現実があります。
パターン2:メンバー全員が現場に常駐
一番無念なパターンです。この環境下にも関わらず、全員がクライアント先(又は事務所)へ常駐する必要があるパターンです。これは上記の制限がさらにキツいプロジェクトの場合に発生します。
例えばすべての業務はクライアント先にあるPCでしか許されない、そしてそのPCはクライアント先から持ち帰ることができないといったプロジェクトがあります。その場合は作業をする場合は必ずクライアント先に行く必要があるので、リモートワークはありえません。しかもそのクライアントPCが化石みたいに古くて遅いんだ・・・。
その他の例としては、内部統制の支援(支援といえば聞こえは良いが、実質やっていることは内部監査業務の監査法人へのアウトソーシング)等を実施している際、業務プロセスの承認履歴を「紙資料への上司による押印(つまりハンコ)」でしか認めない会社がクライアントの場合、実際の紙をやり取りする必要があるので、必ず現場に行く必要があります。直接紙を見て「あ、承認してますねー内部統制OKでーす^^」というわけですね。実際はこれだけじゃありませんが、わかりやすい例なのであげました、念のため。
「え?今は令和だよ?そんな昭和時代の話しないでくださいよ」という声、聞こえてきますね。え?紙資料の方が改ざんしやすいからもっと電子化して制限かけた方が良い?もっと言ってください。ただ、この国には信仰の自由がry
もしこのようなプロジェクトに配属された場合、待っているのはいつもと変わらぬ日常です。最終成果物が紙でしか納品を許されず、印刷のために出勤してますと後輩から聞いたときは、憐みのまなざしを向けるのを止めることができませんでした。
パターン3:メンバー全員がリモートワーク
これは僕が経験したものじゃないのですが、メンバー全員がリモートワークとなっているプロジェクトもあります。クライアントが会社の方針として今回のコロナを契機と適格にとらえ、社員に大幅なリモートワークを推進(もはや強要といえるレベル)する場合です。当然それをサポートする監査法人としての我々も全員がクライアントオフィスに行くことを禁止されます。原則会議は全てWeb会議に変更、資料のやり取りも全て電子化されます。
もちろん一概には言えないですが、業界トップを走っている企業がこのような柔軟な対応をとることが多いです。もちろんサンプル数が「僕の見聞きした範囲」ということでめちゃくちゃ狭いのは承知していますが、一つの参考として覚えておいてもよいかもしれません。
業界トップといえば、新卒としての就職活動のときに「我々は業界No.1なので、日本だけでなく世界に目を向けて競争をしています。言い方はアレですが国内の競合は眼中になく、日本No.1として世界と戦う気概を持って働いているんです。No.1としての責任があるので、常に道を切り開いていなかければなりません。」とめっちゃ格好良いこと言ってたN証券のお方は元気でしょうか。やはりNo.1は柔軟に変化し続けるからNo.1ということなのでしょうか。書いていて何を書いているか意味不明になってきたので本筋に戻ります。
当然そのようなプロジェクトに配属されたメンバーはリモートワークとして在宅勤務になります。僕が社内チャットで連絡した同僚が上記のような完全リモートのプロジェクトに所属しており、チャット上でマウントを取られてしまいました。
「え?あきおさん出社してるんですか?やばいですね!」
この「やばい」が指すのはこの環境下でも出社し続ける僕の神経がおかしいと言っているのか、はたまた責任感の強さ(組織の犬とも言う)の高さがすごいと言っているのかは触れませんでしたが、多分後者です。
リモート環境があぶりだしたもの
このようなリモート環境になると、より自分を仕事にコミットできる人間が存在感を放つらしく、これまで何をやっているかわからなかった人は、リモートワークになり完全に存在感が消滅したと思います。僕の部門でも「あの人って本当に何をやっているんだ?」という人が何人も登場しました。「自分、手を動かす作業というよりは、クライアントとのコミュニケーションで仕事していくタイプなんで^^」とイキっていた先輩がいたのですが、最近パタリと社内のWeb会議やクライアントとの会議に姿を見せなくなりました。どうやらコロナはクライアントにとっても「不要な人物」とのかかわりを断つ絶好の機会だったらしく、身が引き締まる思いですね。やはり、監査法人で働く以上は自分の知識を磨き続けてクライアントの要望に的確に応えられる人が強いのだと思います。さて、本でも読みますか!