監査法人での業務内容の選び方
年末が近づいてきましたね。正直今年が残り約1ヶ月ということに驚愕しているわけですが、この時期、つまり年末年始が近づくにつれて「僕/私の人生はこのままでいいんだろうか」と物思いにふけることが多くなると思います。ぼくだけでしょうか。そんなときによく考えるのが、自分の仕事は今のままで問題ないか、ということです。いわゆる「自分の人生これで良いのか?」というやつです。
このような僕みたいな人が数年後(もしくは現在進行形)に監査法人で同じ悩みを抱えるかもしれないので、今回は「監査法人での業務内容の選び方」について書いていきます。タイトルだけ見ると監査法人に特化したような内容になっていますが、内容としては普遍的なことだと思っています。
監査法人の業務内容について
監査法人が取り扱っている仕事は幅広く、メインの業務分野である監査はもちろんのこと、一般の人にはわけのわからないアドバイザリー業務まで提供しています。ただ、監査法人の業務は大きく分けると会計士の本流である「会計・内部統制に関する業務」と「それ以外の業務」に分けられると思います。ここでは、会計・内部統制に関する業務を「王道」、そしてそれ以外の業務を「ニッチ」と分類して、それぞれの業務分野に関するメリットデメリットについて記載していきます。それらを踏まえて、自分に向いていると思う方向に進めば良いと思います。
王道:会計・内部統制
まず、王道の会計や内部統制の分野の業務についてです。監査法人のメイン業務である「監査」はもちろんのこと、海外に上場しているクライアント向けのGAAP調整の支援や、内部統制の構築支援、テスティング支援などのアドバイザリー業務もこちらに含まれます。
メリット
これらの業務のメリットとして、会計や内部統制には「しっかりとしたバックグラウンドがある」ということがあげられます。特に会計に関しては基本的に会社を運営するにあたって必須になるスキルになります。つまり、会計・内部統制について詳しく知ることによって、どこの会社でも通用するようなスキルを身につけることができます。露骨なことをいうと、会計に精通すると、ある程度の生活水準を手に入れるのが非常に容易になります。
*内部統制は比較的若い分野に分類されます。
また、知識が既に体系立てて用意されているのも大きなメリットになります。いざ会計や内部統制を勉強しようと思ったら、本屋に行けば大量に会計・内部統制分野の本が積まれているので、どのように勉強すれば良いか困ることはほとんどありません。会計に関して言えば簿記という勉強の成果が目に見える資格も用意されています。
他にも、プロジェクトにもよりますが、繁閑がはっきり分かれているのもメリットだと言えます。人によっては忙しい時期に残業をしまくってお金を稼ぎ、繁忙期が終われば1ヶ月程度の有給を取得してのんびりするというメリハリのきいた人生を歩んでいる人もいます。
デメリット
会計・内部統制分野のデメリットですが、世の中の真理通り、メリットの裏返しがデメリットになります。まず監査法人ですが、基本的ににほんの会計士試験を突破してきたエリート達の集団となっています。その彼らのほとんどの武器が「会計」であり、彼らを知識面で打ち負かすには並大抵の努力では不可能になります。中には「歩く監査六法」みたいな異名がついている人や「趣味は会計です」みたいな常人には理解できない領域に達している人もいるので、存在感を出すには相当な努力が必要になることがわかります。
また、知識が体系立っているため、新規参入者も容易に入ってくることになります。言い換えると、競争相手が多いのです。上記のメリットを理解している人が非常に多く、会計・内部統制分野で食べていこうとする人は割と厳しい競争にさらされることになります。
さらに、僕の経験上、監査法人に所属している時点で、クライアントからは「この人は会計に詳しい」と認識されています。つまり、会計分野でアホな質問ができないわけです。僕は一度クライアントにアホな質問をしてしまい「先生なら当然ご存知だと思いますが」という悲しい反応をされたことがあります。
ニッチ:それ以外の業務
では、王道である会計・内部統制以外の分野の業務についてはどうでしょうか。ニッチな業務とは、金融規制対応、データガバナンス、海外進出支援など、監査法人の業務内容でググって出てくる「会計・内部統制」以外の分野の業務になります。世間一般にはあまり知られていない業務内容ですね。では、それぞれメリットデメリットをみていきましょう。
メリット
ニッチな仕事に携わるメリットですが、一番大きいのは本気を出して取り組めばその分野の第一人者になりやすいということがあげられます。ニッチな分野というのは監査法人の中でも人気があるというわけではなく、人手不足の状態が多いです。わざわざ難関の会計士試験を突破してから会計に関係ない分野に携わりたい人は多くないですからね。つまり、スタート地点から競争相手が比較的少ないわけです。そこである程度の期間必死に働きながら勉強をつづけると、一気にその分野のトップレベルまでのし上がることが可能です。
ある分野のトップレベルになるのは想像以上に快適で、クライアントからの質問も名指しで来ますし、会議にも引っ張りだこです。自分がいないと回らないので自分のスケジュールが優先されやすいですし(この辺りは調整能力が必要)、仕事をしながらある程度の自由を得ることができます。
デメリット
ではデメリットは何かというと、まず会計と比べると知識があまり体系立てて用意されていないことがあげられます。金融規制を例にあげると、リーマンショックのあとに世界で合意して始まった金融規制なので、教科書と呼ばれるものは市場に皆無です。当局が発表する規制を読み込んで、クライアントのビジネスへの影響を自分で理解する必要があります。ただ、経験を積めば自分だけが理解している領域がどんどん増えて、ますます影響力が増加するという良い面でもあります。
また、既に第一人者のいる分野にアサインされる場合、その人の手足となって働くだけで終わってしまうリスクもあります。重要な仕事のほとんどがその人に集中し、その人の雑務だけ仕事として降ってくるパターンですね。上記のように教科書がないのでキャッチアップするには工夫が必要となります。これは自分から少しズレた業務にアサインを希望することで回避可能ですが。
次に、繁閑を予想しにくいことがあげられます。もちろんプロジェクトにもよりますが、会計のように四半期ごとに忙しいです、といった流れがあるわけではなく、クライアントのニーズに応える形で(もしくは自ら営業する形で)仕事が発生することが基本です。そのため、休みをとろうと思っていたときに重要な仕事が舞い込んできて一気に忙しくなるということもありえます。僕がニッチ分野に所属していたときは、キャッチアップをしていた年は有給を5日も取らなかったと記憶しています。今となっては問題になってしまいますね。
もう一点、重要なデメリットとして、その分野がいつまで盛り上がっているか予測不可能という点があります。盛り上がっているときは仕事がバンバン舞い込んでくるのですが、一旦落ち着くと急に仕事が少なくなります。するとこれまで自分に蓄えた知識・経験が廃れてしまい、次に活躍できる分野を探してまた新しい知識・経験を蓄える必要があります。監査法人が非監査部門で次々と新しい分野を開拓しているのはこの辺りに理由があるのかもしれません。
まとめ
最後に簡単にまとめると、会計・内部統制分野は分野としてしっかりとしており、腰を据えて自分を鍛えやすいのですが、その分競争相手が大量にいる上に変態レベルでの強者が存在しています。ニッチ分野は自身が第一人者になれる(かつなりやすい)ポテンシャルを秘めていますが、その分野がいつまで続くか見通しが立たず、かつ自分で知識・経験を工夫して得る必要があります。
ちなみに僕は監査法人におけるキャリアとしてニッチからスタートし、現在は王道分野に異動したという経験の持ち主です。ニッチ分野にいるときも、王道分野にいる今も周囲の人に色々な相談をしてきたので、上記の内容はそこまで外していないと思っています。もちろん、この王道、ニッチの分け方は事業会社にも当てはまると思います。
この内容が悩める誰かに少しでも参考になれば幸いです。